数学の現実世界への応用例を知る10冊

数学がリアルで役に立っている話題は結構面白く、授業でちょこっと話すネタとして使えます。今回は高校教員の立場から、興味深いと思える10冊をまとめてみました。

1.暗号の整数論

結構有名になったかと思われるRSA暗号の話題について、初等整数論による解説があります。特に予備知識は必要なく、ページ数も短いのですぐ読めてしまうと思います。読んでおくと数Aの「整数の性質」の分野の授業で大いに役立ちます。

2.フーリエ解析講義

この本はコスパが良くて、フーリエ解析の応用として2つの事例を学べます。まず1つがお腹の断面図を求めるCTスキャンの原理について。X線をいろんな角度から当てたものを360°分積分すると断面図が得られるという式変形が面白い。

2つ目はサンプリング定理について。サンプリング定理は音をデジタル化するための基礎理論で、これがあるからこそ我々は綺麗な音楽をCDあるいはスマホ上などからで聞くことができているのです。

フーリエ解析や超関数という話題に一度でも触れていると読みやすいですが、この本の前半でそれらの解説も行なっているので、頑張れば初めての人でもいけると思います。

コテコテの解析系の話なので、数学3の授業で微積分を教えるときにちょっとした息抜きとして話してもいいと思います。

3.誤り訂正符号入門

符号理論の話題ということで、デジタル的なものすべてにからんでくると言っても良い技術。自分自身はRS(リードソロモン)符号の理解のために5章を中心にしか読んでいないのですが、きちんと数学的な議論が省かれずに書かれていて充実感を感じながら読んだような記憶があるります。行列式、体といった用語に慣れていると読みやすいと思います。

授業で扱う際には、いきなり誤り訂正符号といっても生徒に伝わらないので、たとえばQRコードをマジックで汚しても読みこみ可能であるということを実演して、そこに誤り訂正符号の技術がある、というような話をすると伝わりやすいと思います。高3生には線形代数の入り口として紹介しても良いかも。また、符号化復号化の過程では結局やっていることは多項式の四則演算なので、多項式の計算の分野でも話せるかも。

4.微分方程式で数学モデルを作ろう

微分方程式の応用例がいろいろ書かれてあります。話題としては「ロケットの飛行」と「美術品の贋作」の話が特に面白かったですね。

「ロケットの飛行」は2段組ロケットを飛ばす際に、速度をつけて飛ばしたい(地球の引力に逆らって外に飛び出したいので)が、速度を上げるには2段組ロケットの質量比をどのようにすればよいのかという話。文字がごちゃごちゃ入ってはいますが、こんな技術的に難しそうな話題であっても、根本的には「最大値は微分して=0となるところを求める」という計算ですすむところを式ではっきりと見せてくれて感動的です。

「美術品の贋作」は美術作品の顔料に含まれている放射性同位体の割合から、いつ作られた作品なのかを推定する、という話題です。ナチス時代の話でもあり、歴史的な話を織り交ぜても面白いと思います。

5.現象から微積分を学ぼう

微積分を基礎から解説している本で、扱っているネタそのものは数は多くはないですが、読みやすく書かれていると思います。第2章微分法の曲率半径の話で、2005年のJR宝塚線の脱線事故の話を扱っています。当時の電車の速度、事故が起きた現場でのカーブの曲率半径の情報などから、事故の原因を数理的に考察しています。事故を起こさないための技術者な観点から何ができるのかも考えさせると良いですね。

6.等長地図はなぜできない

地図の話題です。地図の書き方はメルカトルとかサンソンとかいろいろあるのですが、「任意の地球上の2点間の距離を正しく表す」ような地図は作ることができません。その理由を数理的に解説したのがこの本です。地図の話題をしてから、この話をすると受けそうですね。

7.実験数学読本

実験を通して数理現象を眺めてみよう!という画期的な本。第1章で具体的な実験の様子、第2章以下でその数理的な解説がある。

8.QEの計算アルゴリズムとその応用

QEという計算技術の解説。第1章で、2010年実施の国立大学の入試問題が、QEで次々と解かれていくところは個人的にすごくスカッとして気持ちいいですね。高校で教える立場であれば、こういうツールがあるということを知っておくといいですね。さらに、QEが使える場面として石油精製プロセス制御なるバリバリの工学系の話題を紹介しています。入試問題を解くような技術がこういうリアルで役立っていることを知るのは高3生にとってはいい刺激になるかも。

9.Rによるテキストマイニング入門

この本の通りにRという統計ソフトとそのパッケージをインストールすれば、ツイッターのトレンド解析ができます。トレンド解析は頻繁にツイートされた言葉を大きくふわふわと表示させるというようなグラフを作成するものです。ほとんどの生徒がツイッターを利用しているので、ネタとして結構インパクトがあると思います。

10.日常現象からの解析学

高校数学で通り過ぎた話題のいくつかが回収できる本です。特に、ひもを両手で持ったときに垂れてできる曲線、カテナリーの計算が載っている点が素晴らしいです。この他にも、最急降下曲線の導出などもあり、数学3の授業のネタとして大変使えそうです。

以上10冊の紹介でした。今後もどんどん読んでいきたいです。